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ワ イン物語 オスピス・ド・ボーヌその1
ブルゴーニュの代表的なワインのひと つ、「オスピス・ド・ボーヌ」。
その由来、つくり方ともに類を見ないこのワインについて、
2週連続でお話ししたいと思います。
今週は、
このワインとの出会いとなったブルゴーニュ・ワインツアーのお話です。
出会いは 「ブルゴーニュ・ワインツアー」

私がはじめてブルゴーニュ地方を訪れたのは、2002年7月のことです。既 に「今週のワイン物語〜シャ ブリ」でお話ししましたが、私にとって白ワインの原点は「シャブリ」。そして、その旅で出会った「オスピス・ド・ボーヌ(Hospices de Beaune)が、赤ワインの原体験と呼べるかもしれません。
今週のワイン物語は、ブルゴーニュの代表的なワインのうちの1本、この「オスピス・ド・ボーヌ」を取り上げたいと思います。

オスピス・ド・ボーヌとの出会いは、ブルゴーニュ地方の中心地、ディジョンからスタートし、あの「ロマネ・コンティ」の畑など、「コート・ドール (Cote d`Dor)の畑をぐるりと回るワインツアーに参加したときのことです。ワインツアーはインターネットで探したのですが、フランスでまだ車を運転する勇気 がなかった私にとって、電車やバスの本数が少ない「コート・ドール」を巡る、もっとも手っ取り早い手段でした。
「コート・ドール」とは、「黄金の丘」という意味。ブドウの収穫期の金色に輝く畑を表した名前という説や、ワインが生み出す富を表現したという説もありま す。訪れたのは7月ですから、9月、10月という収穫期には程遠く、まだブドウの葉は青々としている時期とはいえ、青い空のもと、光に輝くブドウ畑を想像 し、胸が高鳴ったのでした。

このワインツアーは「Wine & Voyage社」という会社によるもの。約半日、英語とフランス語によるガイド、カーブ訪問と10種類ほどのワインの試飲がついて50ユーロ、当時のレー トで約5500円です。私たち以外の参加者は、日本からの留学生が2人、イギリス人の夫婦、フランス人の夫婦でした。
はじめて飲んで感動した「オスピス・ド・ボーヌ1986 キュベ・ニコラ・ロラン。これと同じ味を探し求め、パリ中を歩き回りました。



「黄金の丘」は文字通り太陽の光で輝く
さて、ツアーはディジョンの観光案内所から始まります。そこからバンに乗 り、コート・ドール地区を目指 して車は走ります。ディジョンの街から10分ほど走ると、すぐに連なる丘に広がるブドウ畑を目にすることができます。フィサン(Fixin)、マルサネ (Marsannay)、ジュヴレ・シャンベルタン(Gevrey Chambertin)など、銘醸ワインを生み出す村々を通り抜けていきます。
ガイドさんの話は、質の高いワインの由来となるブルゴーニュの地形や地質、ワインが生み出す富によってこの地域の人たちが豊かな暮らしをしていること、ど のような畑でおいしいワインが生み出されるかなどさまざま。本では同じような内容を読んでいたものの、目の前にある「証拠」を見ながら学ぶと、さすがに頭 に入ります。

この当時、今よりずっとフランス語のレベルは低かったのですが、比較的ガイドさんがゆっくりしゃべってくれたこと、英語がサポートの役割を果たしてくれた こと(ちなみに私は英語もダメですが、さすがに中学から学んだこともあって、分かる単語が多いという意味です)、また、ブドウ品種や畑の名前などワイン用 語が分かっていたこともあって、だいたい理解でき、ホッとしたものでした。
残念ながら、私が参加した朝は曇り。厚い雲に覆われているせいか、「コート・ドール」が「黄金の丘」という意味であることを忘れるほどでした。

しかし、車がヴォーヌ・ロマネ村にさしかかり、「ロマネ・コンティ」の文字が小さく刻まれた低い石垣を見るため、ブドウ畑が広がる丘の中腹で車が止まった 瞬間、急に太陽が雲の波間から顔をのぞかせ、その一帯が光に包まれたのです。前の夜は雨。雨の雫がブドウの葉を濡らしており、それが光を浴びて輝きます。 ブルゴーニュの丘は、東南に向かう斜面が多く、ブドウ畑にあますところなく光がいきわたるのです。
丘の下のほうでは、太陽の光を受けた雫が水蒸気となって靄となり、さながら天上に浮かぶ黄金の島にいるような、そんな錯覚すらありました。「ここは『黄金 の丘』だ」と、初めて実感したのです。

この後、収穫の後の10月にもブルゴーニュを訪れる機会がありましたが、ブドウの葉が黄金色に変わり、それはそれで「黄金の丘」を実感することができまし た。もちろん、いつ訪れても素晴らしい場所ではありますが、晴れた日か、また、収穫後の葉が色を変える時期の旅をおすすめします。
ディジョンの街。遠くに見える「ギョーム門」の近くにある「オテル・デュ・ノール」に宿泊。1泊2人で8000円くら い。1階のレストランでは、「ムニュ・デギュスタシオン(お試しコース)」といって、ブルゴーニュの名物料理を楽しめます。また、グラスでさまざまな種類 のワインを気軽に飲めました。
濃い緑色のブドウ畑が、太陽の光を浴びて、一斉に輝きだす瞬間は圧巻です。
白ワイン派だった私を感動させた赤ワイン
前置きが長くなりましたが、ワインツアーはこの畑巡りの後、「ニュイ・サ ン・ジョルジュ(Nuits-Saint-Georges)村」のワインカーブで試飲をします。
コート・ドール地区は、北側の「コート・ド・ニュイ」地区と南の「コート・ド・ボーヌ」地区に分けられ、ニュイ・サン・ジョルジュ村はコート・ド・ニュイ 地区の中心の街です。この村では、「Degustation(試飲可)」と書かれたワインカーブ、ショップが軒を連ねます。

ワインツアーでは、2軒のワインカーブを訪れました。それぞれ、グラスに4〜5杯のワインを試飲したように記憶しています。
ワインの試飲は、ブラインドテイスティング(目隠し、つまりワインの名前を見せずに飲む)で行われます。
オスピス・ド・ボーヌとの出会いは、2軒目のカーブでした。試飲したのは、すべて赤ワイン。1杯目、2杯目のワインは、軽くて酸味のあるワインが続きまし た。ピノ・ノワールというブルゴーニュのワインに使われる品種で作られたことが分かる程度で、それほど印象的ではなかったものの、あっさりした和食と楽し めそうと感じたのを覚えています。2杯目のほうが1杯目より凝縮した味わいで、他の参加者には好評でした。

そして、3杯目。口にふくんだ瞬間、華やかな香りが鼻と口に広がり、心地よい刺激を感じます。酸味は残っているのですが、まろやかな膜に包まれているよう な、そんな密やかな奥ゆかしい酸味なのです。飲み込んだ後にも、喉に存在感が残ります。正直、それまで私は白ワイン派。感動するほどの赤ワインに出会った ことがなかったからです。
この後飲んだ4杯目も強い果実の凝縮感があり、レベルの高いワインであることに間違いがなかったのですが、3杯目の強烈な印象の後でかすんでしまったとい う感じです。
ここがロマネ・コンティの畑。写真下の四角い石版の中に畑名がありますが、あまりにひっそりとあるので、うっかりすると見逃してしまいます。。
ワインを飲む順番は、「弱」から「強」へ
このとき、ガイドさんが言っていたのは、 「ワインを出す順番」の重要性でした。
白から赤へ、味わいの弱いものから強いものへ。例えば味わいの弱いものの前に強いものを飲んだりすると、後に飲んだワインはほとんど印象に残らなくなりま す。複数本のワインを食卓に出すときには、お店の人に聞くなどして、出す順番を注意しなければなりません。

ワインツアーで試飲した4本の順番は、間違いがあったというわけではありません。4杯目のワインはとても凝縮された強い味わいのワインでしたから、4番目 に出すのが正しいと思います。しかし、3杯目のワインのような味わいをそれまでに体験したことがなかったために、あまりに強烈な印象を残し、4杯目のとて も強い味わいのワインすら、かすんでしまったというわけです。
実はこの前日、ホテルのレストランでグラスワインをたくさん試飲したのですが、こうしたセオリーが分かっていなかった私は、順番など考えずに目に付いたも のをただオーダーしていました。それぞれの楽しみが分かったのは、ワインの味わいを知っているこのガイドさんがいてこその体験だったのです。
2軒目に試飲したカーブ、「モワイヤール・グリヴォ」。このように試飲させてワインを販売するお店がたくさんあります。
すばらしいワイン、でも「打率」は5割
もう予想がつくでしょうが、この3杯目のワ インが「オスピス・ド・ボーヌ」、ヴィンテージ(作られた年)は1986年だったのです。
既に記憶は怪しいのですが、確か1杯目はブルゴーニュのどこかの村名ワイン、2杯目がどこかのプルミエ・クリュ、そして4杯目はジュヴレ・シャンベルタン のグラン・クリュだったと思います(村名、プルミエ・クリュ、グラン・クリュの説明は、 「今週のワイン物語〜ジュヴレ・シャンベルタンその1」をお読みく ださい)。3杯目のオスピス・ド・ボーヌ以外は、すべて比較的新しいヴィンテージでした。
私は迷わず、このオスピス・ド・ボーヌを購入しました。たくさんの種類のワインを試したいとき、私はワインバーよりこうしたショップでの試飲を選びます。 ワインは、やっぱり食事と楽しみながら、1本を数人で楽しみたい、そんな思いが強いからです。試飲のあと、たくさんの気に入ったワインからベストな1本を 選べる−−こんな醍醐味は他にありません。
このワインは35ユーロ、当時のレートで4000円くらい。これがものすごく「お買い得」であったことは、後で知ることになります。

それでは、このワインがそれほどまでに私を感動させた理由はどんなものでしょうか?
もちろん、すばらしいワインであることには違いないのですが、このワインはほかのワインにない特殊な作られ方をしており、そのせいですばらしいものとそれ ほどでないものの差が激しいこともまた事実です。このワインツアーの後、オスピス・ド・ボーヌを探しては飲みましたが、すばらしいものに出会える打率は 「5割」というところでした。

まずは、このワインがどのように「特殊な作られ方」をするのか、その話をするには、オスピス・ド・ボーヌの歴史を紐解かなければなりません。その歴史と、 現在どのように作られているのか、そして、おいしいオスピス・ド・ボーヌの選び方については、次週、お話ししようと思います。 
試飲させてくれるお店では、このような地下のカーブを見学させてくれることも。ワインが何万本も並べられ、かび臭く、空気はひんやりとしています。

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