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ワ イン物語 オスピス・ド・ボーヌその2
ブルゴーニュの代表的なワインのひと つ、「オスピス・ド・ボーヌ」。
第2週目は、なぜボランティア精神に基づくワインなのか、
このワインの選び方にもつながる「特殊な作り方」についてお話しします。
「ボー ヌ」はブルゴーニュの町の名前

先週、「オスピス・ド・ボーヌ」というワインが、私を最初に感動させた赤ワ インであり、ただし、「オスピス・ド・ボーヌ」であれば何でもおいしいというわけではないというお話をしました。
その味の「バラツキ」は、他のワインにはない「特殊な作られ方」によるものであり、「オスピス・ド・ボーヌ」の歴史を紐解くことで説明しようと思います。

そもそも「オスピス・ド・ボーヌ」という名前の意味は、どのような意味なのでしょうか?
まずは「ボーヌ」。これは、ブルゴーニュ地方のある町の名前です。
先週も書きましたが、フランス・ブルゴーニュ地方の中心はディジョンという町です。しかし、ワイン愛好家にとっては、ディジョンから数十キロ南下したとこ ろにある「ボーヌ」のほうが魅力溢れる街に違いありません。このディジョンとボーヌの間が、コート・ドール地区の北側、コート・ド・ニュイ地区になりま す。

ボーヌは、いわばブルゴーニュワインの商業上の中心地。中世に築かれた城砦にぐるりと囲まれており、今でも中世の面影をとどめる街並みを見ることができま す。
そして街にはワインショップやワイングッズを売る店、ワインの博物館などが軒を連ねています。ワインショップに入ると、「チョットニホンゴデキマス」とい うような声を掛けられるくらい観光地化されており、街が丸ごと「ワインのテーマパーク」といった雰囲気すらあります。

そんな街のほぼ中心に、ひときわ目立つ、トカゲの模様のような屋根を持った建物がそびえています。これが「オスピス・ド・ボーヌ」といわれる建物です。こ の建物こそ、「オスピス・ド・ボーヌ」のワインを生み出した源なのです。
ボーヌの町並。写真の「マルシェ・オー・ヴァン」は、入場料を10ユーロほど払うと、10種類以上のワイ ンが試飲でき、気に入ればその場で買うことができます。ワインカーブのような暗い道を進んでいくなど、エンタテインメント性は抜群。



始まりは「慈善の心」だった
さて、「オスピス」とは、「病院」という意味です。つまり「オスピス・ド・ ボーヌ」は、直訳すると「ボーヌの病院」ということになります。
この建物は、現在では博物館として一般公開されており、今や病院としての機能は残っていませんが、その名の通り、この建物はかつて慈善病院だったのです。

15世紀当時のボーヌは、ブルゴーニュ公国の統治下でとても貧しく、病人や貧困者であふれかえっていました。それに心を痛めたブルゴーニュ公国の財務長 官、ニコラ・ロランとその妻であるギゴーヌ・ド・サランは1443 年、私財を投じてサン・タントワーヌ病院をこの地に建設したのです。
しかし、治療費も払うことができないために病院を訪れることができず、ボーヌの街で行き倒れていく人の数は一向に減ることはありませんでした。

そこでニコラ・ロランは自分の所有するブドウ畑をその病院に寄付し、そこから作られるブドウからワインを作り、ワインを売った利益で病人に無料で治療を施 こすということを考えついたのです。
無償の施しにより多くの人は救われ、この慈悲の精神に共感した裕福層やブルゴーニュのワイン生産者らも、自ら所有するブドウ畑を寄進したりしたので、病院 が所有するブドウ畑は年々増え続け、病院はブルゴーニュ地方一帯にブドウ畑を持つようになりました。
今は歴史的建造物となっているオスピス・ド・ボーヌの「オテル・デュー」(神の家)。これが「トカゲ模 様」の屋根です。

「ワインをオークションにかける」???
その後、1853年から毎年一回のオークションによって、そうしたブドウ畑 で獲れたワインが、公の場で競売にかけられるようになりました。

「ワインが競売にかけられる」と聞いて、「?」と思った方もいるでしょう。ワインの作り方をとてもとても簡略化して説明すると、ブドウの収穫後、果汁を絞 り、それを大きなタンクの中で発酵させ、その後に樽詰めしてさらに発酵、熟成させます。
「オスピス・ド・ボーヌ」の場合、ブルゴーニュ各地の寄進されたオスピス・ド・ボーヌが管理する畑で作られたブドウは、発酵、樽詰めまでを「オスピス・ ド・ボーヌ」の管理下で行います。その後、その樽詰めされたワインをオークションにかけ、それ以降の樽貯蔵、瓶詰め、出荷は落札者に任せるという方法でワ インを完成させるのです。

オテル・デューの内部は見学可能。ベッドが数多く並び、往時の姿を留めています。
ブルゴーニュワインの価格にまで影響
ちなみに、オスピス・ド・ボーヌのオーク ションは毎年11月の第3日曜日に開かれます。ワインオークションでは世界最大の慈善オークションで、ブルゴーニュ全体のお祭りさわぎになる日です。
このオークションの前日には「クロ・ド・ヴージョ」で「ブルゴーニュ利き酒騎士団」の叙任式があり、2日目はボーヌのオスピス・ド・ボーヌでのワインオー クション、3日目はムルソー村でのシャトー・ド・ムルソーでラ・ポーレといわれる昼食会が開かれ、この一大イベントを「栄光の3日間」と呼んでいます。
残念ながら、この日にボーヌを訪れたことはありませんが、世界中のワイン関係者や入札に参加するバイヤーなどでにぎわうそうです。この「栄光の3日間」の 期間中、本当かどうかは知りませんが、ボーヌとボーヌ近郊のホテルは1年前からいっぱいになると言われるほどです。

今ではこのオスピス・ド・ボーヌでの落札価格は、その年のブルゴーニュのワイン価格に影響を与えているといわれています。
また、この競売によって得たお金は、今では近代化された建物に移ったオスピス・ド・ボーヌの病院の維持や運営に役立てられています。「飲むだけで(一応 は)ボランティアをしていることになる」という、これもこのワインのとても特殊な一面だと言えるでしょう。
左の中年男性が、ニコラ・ロラン。この絵はフランドルの巨匠、ヤン・ファン・エイクの手によるもので、か つてはブル ゴーニュにあったそうですが、今はパリ・ルーブル美術館で見ることができます。ちなみに右側は聖母マリア。このように絵の中に絵の寄進者本人が登場するこ とは、よくあるのです。
畑の潜在能力はすばらしいものの……
とはいえ、このワインに人気があるのは、 「ボランティア精神をくすぐるから」ということでは決してなく、その味わいの素晴らしさが起因しているのは間違いありません。

まずは畑そのもののポテンシャル(潜在能力)が高く、ブルゴーニュ各地に点在するオスピス・ド・ボーヌの畑は、数少ない例外を除きグラン・クリュかプルミ エ・クリュです。例外はスィロ−ショードロンのポマールとロパンのムルソーでこの2つは村名のアペラシオンになります(グラン・クリュ、プルミエ・ク リュ、村名のアペラシオンについては、「今週のワイン物語〜ジュヴレ・シャンベルタンその1」をご覧ください)。
そして、オスピス・ド・ボーヌの畑では、ブドウの木の手入れやブドウの実の選定などブドウ作りが、厳しい管理の下に行われています。一般にブドウの木は、 樹齢が長いほうが味わいの複雑なワインを生み出すと言われ、オスピス・ド・ボーヌでは8年以下の樹齢の木からとったワインは競売に出されることはありませ ん。
また収穫されたブドウは競売に掛けられるまでは、ボーヌ市外の醸造所で最新鋭の設備によってワインの質を向上させるあらゆる手段をされつくしていることか ら、ワインの作りはかなりの高水準であるといえます。
こうした事実が、ワイン愛好家たちの期待を高めます。

ただし、先週「打率5割」と書いたように、すばらしいものとそうでないものがあるのもまた、事実です。その原因の一つは、「オークション後」にあります。

オークションでワインを落札した会社は、1月半ばまでにここからワインを引き取り、自社の樽に詰め替え、貯蔵熟成することになります。どのような樽に詰め られるのか、どのような環境で熟成するかは、当然、ワインの味に影響を与えます。
これまで、「シャブリ」「ジュヴレ・シャンベルタン」などの回で、ワインの味わいは畑のポテンシャルや個性、作り手の力によって大きく左右されることをお 話してきました。
オスピス・ド・ボーヌもその例外ではなく、「オスピス・ド・ボーヌ」と名が付き、同じ畑から産出されたワインでも、その落札者によって、味わいに差が出て くるわけです。「オスピス・ド・ボーヌはこんな味わい」とひと言で表現することができないのです。
オテル・デューのキッチンも再現されています。15分に一度、「音と光のスペクタクル」と称し、説明とと もに人形や調理道具が動き出します。
オテル・デューの薬局。その中身は、「わらじむしの粉」「ざりがにの目」……本当に効いたんでしょうか?
思い出はワインを楽しむ大切なスパイス
つまり、「オスピス・ド・ボーヌ」のラベル をワインショップで見かけたとき、すぐに飛び付くのは早計ということになります。
それが自分の好みのワインかどうかを見極めるには、ラベルをじっくり見なければなりません。

まずはその畑のある地域が自分の好みかどうか、そして、その作り手が自分の好みのワインを作る、信頼のおける作り手かどうか。これは、ある程度、ブルゴー ニュワインを飲み続けた経験がなければ、判断が難しいものです。ブルゴーニュワインは大好きで、まあまあ本数を飲んだなあと思う私が、打率5割なのです。
とはいえ、私自身は、「オスピス・ド・ボーヌ」はフランスですらお目にかかる機会があまりなく、「その1」でお話ししたような感動体験をもう一度味わいた くて、見つけたらすぐに買ってしまいます。

その理由は、ボトルを空ける前の「ワクワク、ドキドキ」と、飲んだときの「余韻」があるからです。
素晴らしい(あるいは素晴らしいと期待される)ワインを飲む前に共通することですが、飲もうと思った朝から「何の料理に合わせよう」「どんな味だろう」 と、いつも「ワクワク、ドキドキ」とした興奮を味わうことができます。もちろん、あんまり好みではなくてがっかりすることだってありますが、飲むその瞬間 まで楽しい気持ちでいられるのですから、それはそれでよしとすべきでしょう。
オスピス・ド・ボーヌは、また、あのボーヌのワインカーブでの感動を体験できるのではないかと、胸の高鳴りは2倍、3倍にもなるのです。

そして、「余韻」とは、思い出の「余韻」です。オスピス・ド・ボーヌを飲むと、言葉に苦労しながらブルゴーニュを回ったこと、ワインツアーで見た黄金に輝 く畑、そして試飲で感動し、購入したオスピス・ド・ボーヌをパリのアパルトマンで空けた喜び……そんないろんな瞬間が脳裏に次々と浮かんでくるのです。
別に、旅行でなくても構わないと思います。大切な人の誕生日に空けたワイン、おいしい料理と飲んだワイン、嬉しいことがあったときに空けたワイン、天気の いい日にリラックスしながら太陽のもとで飲んだワインなど、同じワインを空けたときには、必ず思い出が蘇るでしょう。

そうした思い出は、ワインをおいしくするスパイスの一つ。ですから単にアルコールを欲する、という飲み方ではなく、1本のワインを空けるときには、思い出 に残るような、そんなシチュエーション作りも大切だと思うのです。
オテル・デューというより、フランスの至宝の一つと言える衝立画。これもフランドルの画家、ヴァン・デ ル・ウェイデン によって描かれたものです。当時ブルゴーニュ公国はフランドル(現在のベルギー付近)に領土を広げていたため、「絵画先進国」であった画家たちの傑作が数 多く残っているのです。

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