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ワ イン物語 ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー
「ミュスカデ」というワインを、
メニューの中で一度は見たことがある方も多いと思います。
今週は、その中でも秀逸と言われる
「ミュスカデ・セーブル・エ・メーヌ・シュール・リー」を取り上げ、
その長い名前を紐解くことにより、
このワインがおいしい理由をお話したいと思います。

「ミュス カデ」は「安いけどマズい」という誤解

今週のワイン物語は、ロワール地方のワイン、「ミュスカデ・セーヴル・エ・ メーヌ・シュール・リー」という1本を取り上げたいと思います。
「ミュスカデ」というワインは、日本でも多くの飲食店で置かれており、名前を聞いたことがある方は多いでしょう。比較的安価で飲める場合が多く、同時に質 の良くないものであることが少なくありません。周囲の人に聞いてみると、以前お話した「シャブリ」と同様に「安くてマズイ」イメージを持っていたりしま す。しかし、この「ミュスカデ」というワインも、選び方次第で、とても安く、おいしいものに出会えるのです。

「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー」は、「ミュスカデ」に分類されるワインのうちの一つ。おいしい「ミュスカデ」に出会う一つのカギ が、この「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー」という長い名前に隠されています。
そのカギを知るにあたり、まずは「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー」の名前を「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」という部分と、 「シュール・リー」という部分の2つに分割する必要があります。
ミュスカデの名前が付くワインは、世界のあらゆるワインの中でももっともお買い得なワインの中に数えられると思いま す。日本でも1000円ぐらいから見つけることができます。なんといってもおすすめなのは写真のワイン、「シュール・リー製法」を創始した作り手ルイ・メ テロー Louis Metaireauです。



ロワールのワインはひとくくりにできない
まずは、「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」という部分について、お話し たいと思います。
冒頭で書いたように、ミュスカデはフランス・ロワール地方のワインです。
ロワール地方のワインは、フランスのほぼ真ん中に位置するセヴェンヌ山地を水源とし、大西洋まで続くロワール河の流域一帯で作られます。ロワール河は全長 1千キロメートルを超えるフランスで一番長い河です。フランスの中央部から西の太平洋に注ぐ東西に伸びる大河沿いで作られるワインは、栽培されるブドウ品 種や気候、土壌などの違いによって赤、白、ロゼ、発泡性、味は甘口から辛口まで本当にさまざまな種類のワインが作り出されています。

ロワールの地方のワインは、ひとくくりにしてお話しするにはあまりにも広く、その地域性が異なります。大きく分類すると、ナント地区、アンジュー・ソー ミュール地区、トゥーレ−ヌ地区、ソントル・ニヴェルネ地区の4つ。
よくツアーで「ロワール古城巡り」といったコースがありますが、これはアンジュー・ソーミュール地区やトゥーレーヌ地区を巡るもの。これらの地区は、河の 周囲に渓谷と山、古いお城が美しい景色を織り成しています。一方、今回紹介する「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー」は、ロワール河が大 西洋に流れ込むナント地区で生産されるワイン。ナント周辺は、一転して、ロワール河の河口が作り出す平野が広がる地形なのです。

私がナントを訪れたのは、パリの北西、ブルターニュ地方の帰りがけでした。
ブルターニュ地方をまっすぐ南下すると、ナント地方に行き当たります。ブルターニュ地方はパリよりも北にあり、寒冷地ですから、ブドウを生産することがで きません。電車でナントに向かうとき、窓の外の景色はリンゴ畑と羊や牛が草を食む牧草地の繰り返しでした。それがナントに近付くにつれ、ブドウ畑が姿を現 します。ナント地区は、大西洋岸のブドウ生産地、つまりワイン生産地の北限に当たるのです。
フランス北西部、ナント。ブルターニュ公国の大公城跡が街の真ん中に、今も堂々とそびえています。

「ミュスカデ」はブドウの品種の名前
このナント地区一帯で作られるブドウ品種は、その名も「ミュスカデ種」。ブ ドウ品種の名前とワインの名前が一致しており、「ミュスカデ」という名前が入っていれば、ナント地区で作られたワインだと考えることができます。

このミュスカデ種は他の地域にはないブドウ品種で、独特の製法によって酸味や旨みを感じる辛口のすっきりとした白ワインが産出されます。
ミュスカデ種は、もともとブルゴーニュ地方のムロン・ド・ブルゴーニュ種をこの地に移植、改名したもの。18世紀初頭の厳冬により、それまでナント一帯で 栽培されていたブドウ品種は全滅してしまいました。このときブルゴーニュ地方から専門家を呼び寄せ、ブルゴーニュの品種の中でも寒さに強いこの品種が移植 されました。1880年代には病害などの大被害もありましたが、この種は霧が多く冷涼な気候や石灰質を含む土壌に適合し、酸味のある、フルーティなワイン を生み出すことに成功したのです。
ミュスカデと呼ばれるようになったのは麝香(musk)の香りやマスカット(muscat)の香りが特徴だからなど諸説あります。
フランスワインは、AOCワインを頂点に、VDQS(上質指定ワイン)、ヴァン・ド・ペイ(地酒)、ヴァン・ド・ターブル(テーブルワイン)と明確な階層があります。AOCワインというだけで、ある程度、品質に基準が設けられているといえます。
同じ「ミュスカデ」でも4つに分類できる
それでは、「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」という長い名称はいったい なんでしょうか。
「ミュスカデ」という名前を名乗れるワインは、以下の4種類あります。

●ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ
 Muscadet Sevre et Maine
●ミュスカデ・コトー・ド・ラ・ロワール
 Muscadet Coteaux de la Loire
●ミュスカデ
 Muscadet
●ミュスカデ・コート・ド・グランリュ
 Muscadet Cotes de Grandlieu

ご覧の通り、「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」は、この4つのうちの一つです。
これまで何度か説明してきましたが、フランスワイン法ではワインを4つのクラスに分けています。大きくは指定の原産地を呼称できる範囲と、ワインの製法に 品質を向上させるための高い基準を設けているかどうか、この2点が格付けのポイントになります。その指定された原産地名を呼称できる範囲が広域であれば格 付けが低く、より狭い範囲に限定されるほど高くなります。
また、指定地域で栽培できるブドウの種類を風土に合った品種に限定したり、栽培方法や醸造方法などさまざまな基準をクリアしたワインほど高くなります。
この頂点に立つのが「AOCワイン」と呼ばれるもので、「ミュスカデ」もAOCワインに名を連ねており、それが上のような4つの地域(原産地)に分かれて いるというわけです。

これらのミュスカデの名前を持つワインの中でも、「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」は秀逸だとされています。この原産地呼称は、セーヴル川とメーヌ川 周辺の23の村で作られるワインに認められています。
前で述べたように、ミュスカデ種は石灰質を含む土壌を好みます。この地域は他の地域よりも石灰質を多く含んだ土壌で、ブドウ畑は緩やかな丘の南西斜面に位 置しており、さまざまな条件がミュスカデという品種に適していることから、秀逸なワインを産むのでしょう。
ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー

「APPELLATION」と「CONTROLEE」の間に、原産地を示す「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」と書かれています。このように、「シュー ル・リー」製法で作られたワインは、必ず「sur lie」と書くことが義務付けられています。
うまみのあるワインを生み出す「シュール・リー」
さて「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ」 はAOCの呼称であることは分かっていただいたと思いますが、後ろに付く 「シュール・リー」という部分はどんな意味があるのでしょうか。

この文字はこの地区の他の3つの原産地呼称のあとにも見つけることができます。この「シュール・リー」とは製法を表す言葉なのです。文字どおり訳せば「澱 (おり)の上」と言う意味です。

普通白ワインは、発酵の途中で出る酵母の死骸など「澱」と呼ばれる沈殿物を除去しながらさらに発酵を続けていきますが、その澱を取り除く作業をしないで作 るのがシュール・リー製法なのです。この澱はワインの中でたんぱく質からアミノ酸に変わり、ワインに独特のうまみや豊かな味わい、時には微発泡をもたらし ます。シュール・リー製法で作られたワインにはラベルにもSur Lie(シュール・リー)と表示することが義務付けられているのです。

また、同じ「ミュスカデ」を名乗るワインでも、「シュール・リー」と付くものと付かないものがあります。ラベルに「シュール・リー」と書いてなければ、 シュール・リー製法を行わず、普通の白ワインと同様に澱を除去しながら作ったワインです。 


ミュスカデ・コトー・ド・ラ・ロワール・シュール・リー

こちらは、「ミュスカデ・コトー・ド・ラ・ロワール・シュール・リー」という別のミュスカデ。やはり「シュール・リー」製法で作られているので、「sur lie」と入っています。このワインも1500円ほどでしたが、おすすめできる1本です。
魚介とともに、春から夏に楽しめるワイン
「シュール・リー」製法のミュスカデをはじめて意識して飲んだのは、ナントで訪れたレストラン「ラ・シガール」でした。
ナントはかつて、ブルターニュ公国の首都だった街であり、今でもフランスの北西部を代表する大きな都市の一つでもあります。私が乗った列車がナントの中心 部に入ると、大公城の堂々とした姿が目に入ってきました。街の中は、トラムが縦横無尽に走り、人々の欠かせない「足」となっています。
「ラ・シガール」はそんな街の中心部にあり、建物が文化財に指定されているレストラン。中に入ると、ローマの公衆浴場を再現したような、鮮やかな青や水 色、黄色などのモザイクがとても美しく印象的です。

大西洋が間近のこの街で、やはり期待が高まるのは魚介料理。オードブルには生牡蠣やカニ、海老などの盛り合わせを、メインには鯛のブールブランソースを オーダーしました。
給仕にすすめられたのが、この「ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー」です。微発泡によるスッキリ感と酸味が魚介類の生臭さを消し、ブール ブランソースのバター風味にも負けず、ふくよかなうまみをプラスしてくれると言います。

テーブルにキリリと冷されたワインと、新鮮な魚介が並び、また、給仕の言葉はなるほどそのとおりで、今でもとても幸せな時間を過ごした記憶が蘇ってきま す。このナントへの旅は、ちょうど夏至の頃。日本でいうところの4 月、5月くらいの気候でしょうか。冷して飲んだほうが楽しめるこのワインは、ちょっと散歩をしたりすると、汗ばむくらいのこの時期からが飲み頃です。
食事が終わって、22時はとうに回った時間。パリよりも西にあるこの街は、ちょうど夕暮れどきを迎えていました。夏の夕暮れ、強い西日を受けながら、夕食 をのんびり楽しむには最高のワインだな、などと思いながらホテルに向かったのを覚えています。
22時過ぎに見た「夕焼け」。緯度が高い国なので夏は日が長いのですが、パリよりも西にあるナントでは、夕暮れの時間がより遅い時刻になるのです。
ミュスカデと相性のいい料理と適温

軽めで、すがすがしい酸味が特徴のフルーティな辛口の白ワインなので、魚貝類全般に合うと思います。実際に地元ナントでは大西洋から取れた海の幸とともに 食されています。
特にシュール・リー製法で作られたミュスカデは、独特のうまみとレモンや、グレープフルーツなどの柑橘系の特徴を持っているので、シンプルな魚の塩焼きな どによく合います。このワインの風味だけで立派な調味料の役割をしてくれるから驚きです。素材の味をそのまま生かす日本料理にはよく合うワインだと思いま す。お刺身や天ぷらなどもしょうゆではなくて塩であわせれば違ったおいしさを見つけられるはずです。
飲む温度は8℃ぐらいの低めの温度でフレッシュ感を味わってください。
ヴィンテージ(作られた年)はフレッシュさが命なので、できる限り若い年代のものを買うことをおすすめします。

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